戦後カミソリ史記 第三話 21世紀初頭のカミソリメーカーの大変革
カミソリ倶楽部 代表 竹内 康起 寄稿
21世紀に入るや予期せぬ大きな出来事を目前にした。シックの親会社である米国ワーナーランバート社と米国ジレット社が続けてM&Aにより買収されたことでありいずれも売上高5-6兆円とわれる超ビッグな企業の傘下に入ったことである。
これぞアメリカ流によるグローバル戦略であり代表的実例だった。事実、ジレット、シック、ウイルキンソンなどは替刃式を主軸とする世界的ブランドあり、生産規模や技術面など共に優れこれらに勝るカミソリメーカーも他にない。
シックカミソリについては親会社の米国ワーナーランバート(WL)社が同業である世界最大手の製薬会社である米国ファイザー社に買収され2002年4月からファイザー・コンシューマーInc.に社名変更した。そして翌2003年1月にファイザー社はシック&ウイルキンソンなどのシェービング事業部門を切り離し、電池を主軸とする米国エナジャイザー社へ売却することで合意した。日本市場に於いては関連事業部を独立させ、シック・ジャパン(株)を設立し、其の後2009年には後藤真一氏が日本人社長として就任することになった。
一方、ジレット社に於いては2006年に家庭用洗剤など世界最大のトイレタリーメーカである米国プロクター&ギャンブル(P&G)社に買収されグループの傘下に入った。ジレットは本社をボストンに置き、創業1904年の長い歴史を持つ財務内容の優れた名門企業であり世界最大のマーケットシェアーを誇るカミソリメーカーである。傘下にはブラウン電気カミソリやOral―B歯ブラシなど有力な企業をも所有していた。 商品面でも2004年にジレット社から電動タイプの男性システム3枚刃マッハエムスリーパワーが発売され、シックからも4枚刃クアトロ4が発売された。これに続き、2005年には国産のフェザーも3枚刃 エフシステムMR3クロムホルダーを発売した。そして2006年の後半にはP&G社からの男性用5枚刃システム「ジレットフュージョン5+1」が発売され世界的注目を集めた。一方、使い捨てを主軸とする貝印では2008年に5枚刃の高級使い捨てカミソリ「プレミアムディスポ5」を新発売した。
大手町 産経会館にて
1989年11月27日
シェービング文化館・カミソリ倶楽部設立発表会
筆者 竹内 康起 46歳(左)
故父 金蔵 75歳(右)
一方、女性用にも革新が起こり、ジレットビィーナスやシックインツュイーションなどデザイン嗜好に基づく3枚刃や電動タイプに加え特殊加工を施した製品が次々に開発されたが、いずれも欧米市場と同型のボデイー用カミソリであり、日本女性が主として使用する顔剃りタイプのL型カミソリはほとんど国内メーカーの製品である。付随して、髭の手入れを可能とするアタッチメント付きホルダー「シックレボルーション」も話題になった。シェービング関連商品分野でもシェービングフォーム始め一般男性化粧品メーカーに対抗しシックによるアロエエキスや炭(洗浄助剤)など配合の新しいジェルタイプのプリシェービングなどが2009年に売り出された。
省みれば、21世紀に入りこの10年間は決して長い期間ではなかったが激動と変化の渦中にあった。カミソリ業界にとっては、まさに歴史に残る大きな変革の時代ともなった。M&Aによるメーカー2社のダイナミックな合併劇もさることながら画期的新製品での4枚刃、5枚刃などの登場もまさに時流の先端を突っ走る勢いだった。かつての両刃時代には刃そのものだけが加工されていたが現在のカミソリにはプラスチックや特殊化学剤などが使われカートリッジタイプとなって来ている。替刃の値段もその分増えたが安全性が高まり消費者から好感を得ている。進化した切れ味は良質なカミソリ素材(帯鋼)からでもあり替刃一枚ごとの使用回数も当然ながら伸びている。世界最大手のカミソリ材供給メーカー、日立金属(株)の本多会長も本年2009年7月に面談した際にも最近の替刃についていろいろな局面から熱っぽく語られていた。2008年の米国発リーマンショック以降デフレと円高で景気も落ち込み、全般的にカミソリの売れ行きにも陰りが出てきたが、一方で、カミソリ倶楽部が展開しているネット上での高級カミソリのギフト販売については新たな市場を創出し関心を呼んでいる。